約 2,753,812 件
https://w.atwiki.jp/kairakunoza/pages/2277.html
『4seasons』 冬/きれいな感情(第十一話)コメントフォーム (容量が一杯だったので分割しました) コメントフォーム 名前 コメント 何度もこの作品は読み返しているが、 この節だけは、このかがみの慟哭の部分だけは 涙なしに読むことができない。 そして、きれいな感情の描写に鳥肌が立つ。 -- 名無しさん (2010-09-20 05 23 03) かがみの本音に胸が苦しくなった。この魅力は本編越えてるよ、マジで。 -- 名無しさん (2008-11-08 02 36 06) みゆきを上手くハイライトしている点もいいなと思った。 ただの天然博識だと普段は描写されるみゆきだけど、 相手が一番望むことを一番望むかたちで叶えられる頭があり、 その適役が自分ならば躊躇いなくその役を買って出れるみゆきに感服したし、 確かにみゆきならそういうことができそうだとも思った。 -- 名無しさん (2008-10-11 18 20 14) 読んでいると、凄くかがみに感情移入ができる(というか、させられてしまう)感じでした。 作者さんはすごくかがみの心情を理解していると思います。 まるでかがみ本人が書いたかのように・・・はっ! まさか・・・あなたが「か(が)み」か!!? なんて冗談を言うために、あえて「かがみ」の心情、なんて書きましたが、 実際どのキャラも凄く深く描かれていて、本当に感服致しました。 素晴らしい作品を、ありがとうございます。 -- 名無しさん (2008-08-13 19 47 40) (´ノω;`) ひどいよひどいよ。いくらなんでもこんなの可哀想すぎるよ…可哀想すぎる。 -- 名無しさん (2008-08-13 14 32 47) 好きな人を想い、悩み、笑って、泣いて、喜んで かがみは本当に素敵な恋をしたと思います もしいつか誰かを想う時があるのなら応援してあげたいです -- 名無しさん (2008-08-13 02 15 54) 長きの連載お疲れ様でした。とても楽しませてもらいました。 こなたという男性的要素のある子(?)と自分でも正直掴みかねる子を 作者さんがどう描くのか主役格のかがみ以上に気になって読ませてもらいましたが、 最後は正直納得したくないモヤモヤしたした物がありました。これは作者さんの話が 気に入らないというのでは無く『アセクシャル』という物に自分として受け入れにくい 思いがどうしても残った為ですが、作者さんの描いたこなた像そのものには 感服するばかりでした。こなた、ががみ、つかさ、みゆきの友愛をこれだけ深く丁寧に 書いていただいた作者さんに感謝を。ありがとうございます。 -- 名無しさん (2008-08-12 19 31 29) 次回で完結か…かがみには幸せになって欲しいなぁ(かがみの欲求を満たす意味で) 何はともあれ応援してます作者様! -- 名無しさん (2008-08-12 14 50 46) とにかく、あまりに切なくて泣けました。ここまで残酷で、きれいな物語は初めて見ました。 -- 名無しさん (2008-08-12 00 26 32) 初めて、小説で泣きました。 あなたの書くキャラクターは生き生きとしていてとても眩しい。 そして人間臭い。生身の人間より人間臭く生きている。 どんなことばもあなたの話の前では安っぽく響いてしまいますね。 だから、一言だけ。 素敵なお話を、ありがとう -- 名無しさん (2008-08-11 05 16 15) 人間の感情の可能性の大きさをみた気がする。 -- 名無しさん (2008-08-11 02 48 25) 貴方の作品に何度心打たれ何度涙したか今では数え切れないくらいです 貴方の作品が更新されるかどうかチェックするのが今では日課になってしまいました。 続編で完結みたいですね、嬉しいような寂しいような複雑な気分ですwww 貴方の作品が大好きです これからも頑張ってください。 -- 名無しさん (2008-08-10 23 35 57) 恐るべき子供たち。 そして恐るべき作者。 最終話が投下されるまで、当然毎日5回はチェケ入れますよ。 -- 名無しさん (2008-08-10 23 01 40) 作者です。お褒めの言葉いつも色々とありがとうございます。毎回本当に凄く嬉しいです。 で、ちょっとスレに投下しないで直接ここに置いた関係上説明不足なところがあった気がしますが、「続く」と書いてある通りに一応次に続きます。ただ、エピローグ的なところなので一話分だけになると思います。分量的には長くなるかもですが……。 そういうわけで、次回投下分で完結になるはずですので、最後までおつきあい頂けると嬉しいです。 -- 16-187 (2008-08-10 21 58 45) 続くのかな?巡ってくれ。この娘達をずっと見守りたいと思う。 -- 名無しさん (2008-08-10 21 50 30) んー・・・・ コレ、映画化じゃね?(´・ω・`) -- 名無しさん (2008-08-10 21 43 57) 完結お疲れ様です ! 心にナイフを突き立てられたような衝撃を受けました SSというよりもはや文学の域に達してると思います ところで・・・続編を最後で匂わすコメントがありますが、期待して いいのでしょうか? 二人のこれからが気になって気になって・・・ -- 名無しさん (2008-08-10 20 32 22) 本当にいい友達に恵まれてるなー しかし、こなたの方にもう一枚何かある気がするのは 愚かな考えなのだろうか… -- 名無しさん (2008-08-10 12 48 12) みんな、強いなと思う -- 名無しさん (2008-08-10 12 33 34)
https://w.atwiki.jp/4seasons/pages/6.html
更新履歴 @wikiのwikiモードでは #recent(数字) と入力することで、wikiのページ更新履歴を表示することができます。 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/17_117_ja.html たとえば、#recent(20)と入力すると以下のように表示されます。 取得中です。
https://w.atwiki.jp/4seasons/pages/8.html
動画(youtube) @wikiのwikiモードでは #video(動画のURL) と入力することで、動画を貼り付けることが出来ます。 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/17_209_ja.html また動画のURLはYoutubeのURLをご利用ください。 =>http //www.youtube.com/ たとえば、#video(http //youtube.com/watch?v=kTV1CcS53JQ)と入力すると以下のように表示されます。
https://w.atwiki.jp/4seasons/pages/10.html
関連ブログ @wikiのwikiモードでは #bf(興味のある単語) と入力することで、あるキーワードに関連するブログ一覧を表示することができます 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/17_161_ja.html たとえば、#bf(ゲーム)と入力すると以下のように表示されます。 #bf
https://w.atwiki.jp/4seasons/pages/3.html
更新履歴 取得中です。 ここを編集
https://w.atwiki.jp/4seasons/pages/5.html
まとめサイト作成支援ツールについて @wikiにはまとめサイト作成を支援するツールがあります。 また、 #matome_list と入力することで、注目の掲示板が一覧表示されます。 利用例)#matome_listと入力すると下記のように表示されます #matome_list
https://w.atwiki.jp/kairakunoza/pages/2191.html
『4seasons』 冬/きれいな感情(第七話)より続く ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― §13 「つかさ、準備できた?」 「あ、うん。出られるよ~」 その声にドアを開けて部屋に入ると、つかさは鏡の前でくるりと振り返って笑った。 ワンピタイプのふわりとしたAラインコートを着ている。ハイウェストで切り替えてギャザーが入っている、最近つかさがお気に入りのやつだ。インナーも多分いつもの紐付きチュニックにタートルだろう。コートから覗くカラータイツが可愛らしくて、私も好きなコーディネイトだった。 けれど私が誉める前に、つかさは私の格好を見て眼を丸くしながら云った。 「わ、やっぱりそれ可愛いね」 「そ、そう? ふふ、ありがとう。モノトーンってシンプルすぎて恐かったのよね」 「だよねー。でも冬だしいいと思うな。なんかお姉ちゃん! って感じするよ」 「どういう感じだよそれ」 褒められたのは素直に嬉しかったけれど、照れくさくてついそんな憎まれ口を叩いてしまう。 一目惚れして買ったチェックのフードつきショートコートに、黒いベブラム袖のショートジャケット。インナーのタートルカットソーには差し色にピンクを選んで。悪くはないと思っていたけれど、改めてつかさに云われると自信も出てくると云うものだ。 用意してあった荷物を受け取って、つかさと一緒に階段を降りる。時間にはまだ余裕があるけれど、念のため早めに出ることに決めていた。 ケーキを取りに台所に入ると、居間でごろごろとテレビを眺めていたまつりお姉ちゃんが声をかけてきた。 「おーおー、おめかししちゃって。どうせ女同士のクリスマスパーティーなのに、気合い入れるだけ哀しくない?」 テレビから“きよしこの夜”のメロディが聞こえてくる。何かのCMか、それともバラエティ番組か。近頃はいい加減クリスマスソングにも食傷ぎみだったけれど、それでも今日がそのクリスマス当日なのだと思うと、それなりに感慨をもって聞こえてくるものだ。 「うっさいな、家でごろごろしてるお姉ちゃんよりましだわよ」 「なにおー。今はたまたま相手がいないだけよ。彼氏できたこともないあんたと一緒にすんな」 「べーだ。そんなの自慢されても全然羨ましくないもん。いくらつき合っても結局毎度振られてるってことじゃん」 「はいはい、喧嘩しないの。クリスマスでしょ」 部屋から出てきたいのりお姉ちゃんが笑いながらそう云って、私とまつりお姉ちゃんは同時に口を閉ざした。 けれど私たちが口をつぐんだのは、云われたことを素直に聞いたからではない。私たちを黙らせたのはいのりお姉ちゃんの言葉ではなく、その装いなのだった。 上品なカシミヤのコートにケープ。ピアスとネックレスはティアドロップで合わせてあって、口紅は紫がかった赤。ふわりと漂う薔薇の香りが艶かしくて、いのりお姉ちゃんの全身からは“大人の女”の雰囲気が感じられた。 「お、お姉ちゃんすごい! すごい奇麗!」 つかさは仔犬のようにはしゃぎながら、いのりお姉ちゃんの周りを跳ね回っている。 「あら、ありがとう。つかさも可愛いよ」 「わーいわーい」 頭を撫でられて、つかさは子供みたいに喜んでいた。昔からいのりお姉ちゃんはつかさのことが可愛くて仕方がないらしく、こんな風に折に触れて構いたがるのだ。つかさもそれが満更でもないのだろう、素直に甘えてはお姉ちゃんを喜ばせるものだった。 なんだか少しだけ面白くない。それは何もつかさを取られたように感じていたというわけではなくて、私はただいのりお姉ちゃんの装いに圧倒されていたのだ。あと六、七年生きた所で、こんな風に女らしく振るまえる自信が私にはまるでない。思い起こせば昔から、いのりお姉ちゃんは私にとって一番身近な大人なのだった。そうしてきっと、これから先いつまで経っても私の“お姉ちゃん”であり続けるのだろうと思う。 「二人とも今出るところ? 私も出るからそこまで一緒に行こうか」 「あ、ちょっとまって。ケーキ、ケーキ」 つかさは冷蔵庫からケーキの箱を取り出して手に持った。それは何日か前からずっと手を掛けてきたつかさ入魂の一作だ。生クリームのデコレーション自体はついさっきまでやっていたのに、一体そんなに前から何をやっていたのだろう。そう思って訊ねてみたけれど、いくら聞いてもつかさは教えてくれなかった。 「それじゃ、後はよろしくね、まつり」 「ニヒヒ、面白いテレビ番組でもあったら後で教えてね」 「うっさい、ばかかがみ! 早く行け!」 怒号と共に飛んできたクッションをかわして、私たちは玄関に向かった。そうして改めて口を揃えて“行ってきます”と挨拶すると、まつりお姉ちゃんからは、いつも通りの口調で”行ってらっしゃい”と返ってくる。 結局のところ柊家は今日も平和で、私たちは相変わらずの四人姉妹なのだった。 境内で掃き掃除をしていたお父さんに声を掛けて、駅に向かって歩きだす。お父さんは私たちに対しては「二人とも、あまり遅くならないようにするんだよ」と云ったけれど、いのりお姉ちゃんには「車に気をつけなよ」と云っただけだった。 「お姉ちゃん、もしかして今日泊まりなの?」 ふとそれが気になって、上機嫌で先を行くお姉ちゃんに声をかけてみる。 「あー……えっと、うん、その予定」 頬を桜色に染めながら、照れたように頬を掻くいのりお姉ちゃんだった。口惜しいけれどそれが酷く艶めかしくて、私は少しだけどきりとする。 「ふーん……」 「な、なによかがみ、その眼は……」 「別にー? ツリ眼なのはお姉ちゃんと一緒で生まれつきだもん」 「いーなー、お泊まり会かー。楽しそうだねー」 のほほんとした顔で、そんなことをつかさが云う。 「何を想像してるかはわかんないけど、きっとつかさが考えてるようなことじゃないわよ」 「ほえ? そなの?」 心底不思議そうに云うつかさを見て、いのりお姉ちゃんも苦笑しているのだった。 用水路を渡ったところで、私たちは駅に向かうお姉ちゃんと別れた。別れ際に手を振りながら「未来のお義兄ちゃんによろしく」なんて云ってみたら、いのりお姉ちゃんは顔を真っ赤に染めて私の頭を叩くそぶりをした。 普段は物静かな印象があるいのりお姉ちゃんだけれど、動揺すると私と同じようにすぐに顔が赤くなる。そんなところを見ると、やっぱり私たちは血を分けた姉妹なんだなと思うのだ。 けれどこんな風に仲良し姉妹でいられるのもあと僅かなのかもしれない。私が大学に受かって一人暮らしを始めたとしたら、つかさとはともかく、お姉ちゃんたちとは今ほど頻繁に顔を合わせることはなくなるだろう。 それが淋しくないと云えば嘘になる。けれどそれはきっと私にとって、そしてつかさにとっても必要なステップなのだと思うのだ。双子として産まれてきた私たちは、いつか別々の人間として自立しなければいけない。いのりお姉ちゃんや――あまり認めたくはないけれど――まつりお姉ちゃんみたいな、しっかりとした大人の女性になるためには。 それは淋しいけれど、悲しくはない。たとえ遠く離ればなれになっても、何年も顔を合わせなくなったとしても、私たちが姉妹として産まれた絆は消え去ることはない。遺伝子に刻まれたDNAと、幼いころから共に過ごしてきた年月は、消え去ることなど決してないのだから。 「この道をお姉ちゃんと歩くのも久しぶりだね」 隣を歩くつかさが、ふと口にする。 「そうね、一緒に歩くのは小学校以来かしらね」 この通りは小学校に向かう通学路なのだった。農地の中にぽつりと建った小学校で、近くにお店なんてほとんどない。特に理由がなければ通るような道ではなかった。郵便ポストも電信柱も公園の並木も、当時は聳えるくらいに大きく見えていたけれど、改めてみてみるとどれも酷く小さかった。 私とつかさは、懐かしい小学校時代の話に花を咲かせながら歩いていった。大切に捧げ持ったケーキの箱が、それでもつかさが歩く度に少しだけ上下に揺れる。 普段泉家に行くときには昨日のように自転車に乗っていくけれど、今日は徒歩だった。家で作ったケーキが崩れることを二人とも嫌ったのだ。 「こなちゃん、元気になってよかったね」 ひとしきり昔話をしたあと、つかさがにっこりと笑って云った。 「私としては釈然としないけどね」 昨日大笑いされたことを思い出すと、今でも頬が赤らむ思いだった。けれどそれでこなたが少しでも浮上できたなら、恥ずかしいところをさらけだした甲斐もあるというものだ。手編みの手袋も喜んでいるに違いない。 昨日から今日にかけて何度かこなたとメールや電話をしたけれど、こなたはいつも通りの元気のよさを取り戻しているように思えた。それはつかさやみゆきにとっても同じ印象だったらしく、皆でほっと胸をなで下ろしていたところなのだった。 「ふふ、こなちゃんが云ってたサプライズってなんだろね?」 ほこほこと微笑んで、つかさが云う。 「さぁね、あいつのことだから、どうせろくでもないことに決まってるわ」 「でも、そんなろくでもないこなちゃんのことが、お姉ちゃんは大好きなんだよねー」 「そ、そうだけど、そんなこと改めて云うな!」 また私のことをからかおうとしているのか。そう思って拳を振り上げてみたけれど、つかさは意に反して真面目そうな顔をしていて、私は少しだけ戸惑った。 「――こなちゃんも、お姉ちゃんのことが好きなんだと思う」 「そんなの…、そんなのわかってるわよ。でも、私の好きとこなたの好きは違うのよ。つかさだってわかってるでしょう?」 ――そうだけど。 そう呟いて、つかさは下を向いてしまう。 一体何を云いだすのだろうと私は思った。私はつかさを好きだし、つかさも私を好きだ。でも私はこなたのことが好きなようにはつかさを好きになれないし、つかさだって男の子のことが好きなようには私を好きになれない。 つかさだってその違いはわかっているはずだ。わかっているからこそ、あの模試の結果が出た日に私に抱きついて『どうして女の子は女の子を好きになれないの』と聞いてきたはずだった。 「それでも、それでもこなちゃんはお姉ちゃんのこと好きなはずなの」 けれどつかさは頑なだった。 「私がこなたのことを好きなように?」 「それは……ちょっと違うと思う、けど……」 その癖はっきりとしなくて、一体何が云いたいのかわからない。 「わかんない。わかんないよつかさ」 「……ごめんね、わたしもよくわかんないや……。でも、こなちゃんがお姉ちゃんを好きな気持ちは、わたしやゆきちゃんを好きな気持ちとも、ちょっと違うと思うんだよ」 「それって、単純に私が弄ってて一番面白いから、とかじゃないの? 私とこなたの関係は、こなたとつかさともこなたとみゆきとの関係とも違うし。関係が違えば、お互いの間の感情も違ってみえるってことじゃ……」 「……そう、なのかな?」 「きっとそうよ」 そんな風に答えながらも、私は少しだけつかさに苛ついていた。先週もそうだったけれど、どうしてつかさはこうやってこなたが私に気があるようなことを云うのだろう。 どうして無駄に期待をもたせるようなことを云うのだろう。 こなたにそんなつもりがないことは、一緒にいて私が一番よくわかっている。私が抱いているような思いをこなたが私に抱いていないことは、その感情を持っている私にとっては自明なことだった。 ――でもつかさが云うには、こなたが私に抱いている感情は、つかさやみゆきに向けるものともまた違うのだという。 それは一体どういう感情なのだろう。どういう“好き”なのだろう。単純に、友情の“好き”にも色々な形があるというだけのことではないのだろうか。色々と考えてみたけれど、それ以外の答えは私には想像もつかなかった。 想像もつかなかったけれど。 そのとき私は、なぜだか秋にそうじろうさんが云った言葉を思い出していた。 『辛いかもしれないけれど、こなたのことをずっと好きでいてやってくれないか』 あの言葉は、結局どういう意味だったのだろう。 けれどそのとき私たちは泉家に到着してしまい、そんな疑問もどこかに行ってしまったのだった。 §14 「「メリークリスマース!」」 「うわっ!」 華やかな挨拶とともにパンパンと派手な音が鳴り響いて、思わず叫び声をあげてしまった。つかさも同じように驚いた様子で、口を半開きにしたまま胸のあたりを片手で押さえつけている。 インターホンを鳴らしたら勝手に入ってこいと云うので、リースの飾られたドアを開けた途端これだった。 紐を引っ張ったクラッカーを手に持ったまま、こなたは目の前でニマニマと笑っている。 「……おい、びっくりさせるって云ってたのはこれのことか?」 「そそ、びっくりしたっしょ?」 「びっくりした、びっくりしたわよ。つかさが持ってたケーキがピンチだったくらいにはね」 「あ、あぶないとこだったよぉ…もうちょっとで落っことしちゃうとこだったもん」 「はうっ、ご、ごめんつかさっ」 「ううん、無事だったから全然平気、わたしがちょっと驚きすぎちゃっただけだよ」 「まあ面白かったからいいけどね……っていうか小父さんまで何やってるんですか……」 そう云って、こなたの隣で照れ笑いを浮かべているそうじろうさんをジト眼で見る。小父さんは、手にこなたと同じようにクラッカーを持っていた。先ほど聞こえたパンパンという二つの音と「メリークリスマス」という声の片方はそうじろうさんのものだったのだ。 「いやー、こなたがやってくれって云うもんでな」 「嘘だッ!! お父さんが俺も混ぜろって云ってきたんじゃんか!」 「こなただって、賑やかな方が楽しいって云ってただろ」 「そりゃ、お父さんがやりたいって云ってきたからだもん。もー、いいから二階上がっててよ」 こなたに背中を押されながら「ごゆっくりー」と私たちに声をかけて、そうじろうさんは階段を上っていった。 「なんていうか、あんたんとこは本当、相変わらずだな……」 「んー、まーねー。それより、突っ込みとかないの?」 「なにがよ?」 「なにがって……。むう、やるなかがみ。あえて突っ込まないという新たな突っ込みを開拓したか……」 「あはは、こなちゃんすっごく可愛いよ」 「おーありがとー、つかさは素直でいいねー」 そんな憎まれ口を叩きながら、こなたはその場でくるりと一回転した。そうするとフェイクファーのついたミニの裾がふわりとひるがえり、白いカラータイツで覆われた太ももが顕わになるのだった。 ひょっとしたら去年の冬にお店で着たというのと同じものだろうか、こなたは身体にぴったり合ったサンタ服を着ていたのだった。 「メリークリスマス、お嬢様♪」 「やめんかこら、どんなお店だ」 そう云って、照れ隠しがてらにサンタ帽ごとこなたの頭を押さえつける。 「ぬお、はなせー、前見えないー、眼がー! 眼がー!」 サンタ帽が大きめで良かったと思う。押さえつけた帽子の縁がこなたの眼を覆っていて、きっと紅潮しているだろう私の頬を見られずにすんでいた。 「先行ってるわよ」 そんな風に云い放ち、こなたが帽子から顔を出す前に背を向けて、部屋へ向かっていった。 「ちぇっ、けちんぼかがみめ」 「ねー、素直に可愛いって云ってあげればいいのにねー」 「つかさ、余計なこと云わない!」 私が怒鳴ると、後ろで二人がクスクスと笑った。 ――全くこいつらは。 少し楽しく思いながらも、わざとらしく怒ったふりをして。ぷりぷりしながらこなたの部屋のドアを開けると、そこに意外な姿があった。 「はっはっはっ、かがみのツンデレっぷり、ここでしっかり聞かせてもらったぜっ」 「あはは、相変わらず仲いいねー」 出されていたこたつに下半身を突っ込んで、寝そべりながら携帯ゲームをしているみさおと、みかんを食べているあやのが既に部屋にいたのだった。 「ああ、きてたんだ。ってかツンデレ云うな」 「うん、かがみちゃんたちが驚くところ聞きたくて静かにしてたの」 そう云って悪戯っぽく笑うあやのは、くるぶしまで隠れるマキシ丈の長いギャザースカートを穿いていた。裾がシフォンフリルになったカットソーもロングスカートに合っていて、上品な可愛らしさに溢れた装いだ。 ちなみにみさおはいつものハーフパンツにカラータイツ。トップスは生成のタートルネックセーターという、飾り気のない格好だった。 部屋の向こう側の壁、こなたの机の横にクリスマスツリーが置かれている。こなたくらいの大きさをした細身の人工ツリーで、こなたとあやのたちが飾りつけをしたのだろう、オーナメントの間で電飾がピカピカと光っていた。 つかさはケーキを冷蔵庫に入れに二階に上がっていって、私が足を突っ込んだこたつの右隣にこなたも座った。こたつは普段はゆたかちゃんの部屋に置いてあるもので、今夜はゆたかちゃんもみなみちゃんの家でのクリスマスパーティーにでかけたらしかった。 「それにしてもちびっ子んちの親父さん、やたらテンションたけーのな」 「んー、お父さんなんか今すっごい暗い小説書いてるみたいで、ほとんど躁鬱病みたいになってんだよね」 「お! お! 噂には聞いてたけど、ほんとに作家なんだな、すっげー! どんなの書いてんだ?」 「えっとね、親を見殺しにした青年が盆栽を育てながら少しずつ死んでいく話だって云ってたよ」 こなたがのほほんとそう云って、部屋に沈黙が訪れる。 みさおはぽかんとしたあとに、なるほどとでも云うようにうなずいたけれど、こいつは絶対に何も考えていない。 あやのは眼を白黒させながら、何か云おうとして口を開いたようだけれど、結局何も云えないまま黙りこんでしまった。 こなたはそんな皆を眺めて、楽しそうにニヤニヤと笑っている。 「わっかんないよねー? わたしも全然わかんないよ。時々“盆栽は宇宙だー!”とか叫んでるしさ」 「まあ、小父さんが書いてるのはいわゆる純文学だから……。筋書きだけ聞いてもよくわからないわね……」 「お、かがみ読んだことあるの?」 「一応ね。三島賞を取ったっていうやつだけ読んだことあるわ」 「あー『ハグルマ』だよね。さっすがかがみん。でも、わけわかんなかったでしょ」 「う……うん」 こなたは普段の糸目のまま何でもないように云ったけれど、私はそれにどう返していいのかわからなかった。 『ハグルマ』は、雑誌に時々短編が載るくらいの知る人ぞ知る作家だった小父さんが、賞を取って一躍有名になった出世作で、その内容はこういうものだった。 主人公の男性は、どういう理由からか物事の因果関係を視覚的にみることができる能力を持っていて、それは噛み合って回る歯車の形になって現れる。主人公はその能力を隠しながら結婚し、やがて一子を授かることになる。けれどその頃から能力はどんどん強さを増していって、複雑に絡み合った因果関係を一目で見通せるほどのものになっていく。 そうしてある日、男は妻と街を歩いているときに交通事故に遭い、心から愛していた妻だけを死なせてしまう。その遺体を呆然と眺めているうちにキリキリと歯車が回っていって、主人公は自分が妻と出会ったことが妻が死ぬことになった一番の原因なのだと識ることになり、発狂する。 ――私が読めたのはそこまでだった。 晦渋な表現がありながらも物語の態をなしていた小説は、それ以降哲学的な思索に滑り込んでいき、私の持っている文学的素養では読み解けなくなってきてしまったのだ。 けれど私がその先を読めなくなった理由はそれだけではなかった。それよりなにより、その小説に満ちていたあまりにも切実な痛みに耐えられなくなったからだ。 髪の長く身体の弱い妻は余りにもかなたさんを連想させ、その特徴を受け継いだ娘は余りにもこなたを連想させた。 妻を殺したのは自分なのだと云って自責する主人公の慟哭は、そうじろうさん自身の思いであるのだろうと思った。 こなたは、読んだことがあるのだろうか。いや、きっとないのだろう。私が勧めたラノベすらろくに読み切ることができない、活字アレルギーのこなたなのだから。私ですら読むのが難しかったそうじろうさんの小説を読んでいることなんて考えられなかった。 だから、私にあの作品の話をしておいて、こんなに普段通りの顔をしていられるのだろう。みさおと一緒に携帯ゲームをやり始めたこなたを眺めながらそう思う。 「ん? どったのかがみ」 「な、なんでもないわよ」 不思議そうに小首を傾げたこなたから慌てて顔を背けたとき、ガチャリとドアを開けてつかさが部屋に入ってきた。 「ただいまー、あ! あやちゃんたち来てたんだー」 「おかえり、つかさちゃん、二階で随分時間かかってたね」 「うん、ちょっとクッキングペーパー探しちゃってた」 「やー、云ってくれればわたしも一緒に行ったのに。ってかそんなの何に使ったのさ?」 「えっとね、濡らしてケーキを覆うようにしておけば、冷蔵庫で固くならないんだよー」 「へー」「へー」「へー」 私とこなたとあやの、三人分の“へー”がこだまする。それを聞いたみさおが、どこぞの雑学番組のようにへーへー云いながらボタンを叩く動作をして、あやのに軽く頭を叩かれた。 「で、でもこなちゃん」 「ん?」 「おじさんの仕事部屋の方から何かうなり声が聞こえてきたんだけど、大丈夫なのかな……声を掛けようとしたんだけど、盆栽がどうのってぶつぶつ聞こえてきて、こ、怖かったよぉ……」 「あー、うん、ほっといていいから」 こなたの投げやりな云い方に、事情を知っている四人はへらへらと笑い、つかさは不思議そうな顔をしたのだった。 私が家から持ってきたガーランドを飾り――『柊だー』なんてこなたが云っていた――つかさがツリーにオーナメントを飾っていたとき、チャイムの音が聞こえてきた。 「あ、みゆきかな」 時計を見ると、約束の時間の十分前。眼を白黒させているあやのにプレイ途中のPSPを押しつけて、こなたは部屋から出て行った。それと同時にどたどたと階段を駆け下りてくるそうじろうさんの跫音が聞こえてきて、私たちは苦笑する。 『『メリークリスマース!』』 二人分の歓迎の声と、パンパンという二つの音。『きゃっ』という可愛い叫び声。ドスンという何か重量のあるものが地面に落ちた音。部屋のそこかしこから、押し殺した笑い声が聞こえてくる。 果たして部屋に入ってきたみゆきはおしりの辺りを撫でさすっていて、私たちは我慢できずに笑い出してしまうのだった。 「あ、あら、みなさんおそろいでしたか……おはずかしい……」 そう云って恥ずかしそうに視線を落としたみゆきは、トップスは腰まである桜色のボレロコート、ボトムスはミニボトムの下にレギンスを合わせるという装いだ。ピンクのボレロなんていうお姫様みたいな服を着こなせるのは、私たちの間ではみゆきくらいのものだろう。胸元に光るネックレスも上品で嫌味を感じさせない物だった。 「あはは、私たちもみんな驚かされたのよ。みゆきみたいに尻餅はつかなかったけどね」 「むふふ、ナイスリアクションだったよみゆき!」 後から現れたこなたがウィンクをしながら親指を突き出すと、みゆきはますます赤くなって縮こまってしまうのだ。 §15 クリスマスパーティーとは云っても、クリスチャンがいるわけでもなければ、聖歌斉唱もキャンドルサービスもない。結局のところみんなで集まって騒ぐというだけで、いつも通りの集まりとあまり変わりはないのだった。 ただ点滅するクリスマスツリーが、普段より少し幻想的な雰囲気を醸し出していたり。 つけたテレビでは、クリスマスのチャリティ特番が聖なる夜の施しを訴えていたり。 こなたがサンタの格好をして寝っ転がっていたり。 ふと眺めた窓の外、瞬くイルミネーションが少しだけ夜を賑やかにしていたり。 結局の所クリスマスらしさなんてそのくらいのもので、そうしてそんなささやかなクリスマスムードだけが、この夜を少しだけ特別なものにしているのだった。 ほんの少しだけ特別なその夜に、親友達の笑い声が響いていく。 そしてその笑い声こそが、私にとってはどこまでも特別なものなのだ。 受験シーズン前の数少ない休日。こうして気の置けない仲間同士で集まれたことが何よりのクリスマスプレゼントだと、私は思った。 けれどそんな楽しい時間はすぐに過ぎていく。 夜も更けてきて、こなたが用意してくれた夕食はクリスマスムード溢れる物だった。それはクリスマス用のケータリングサービスだったのだけれど、こなたは『さすがに手作りは無理だった』なんて云って笑いながら頭を掻いたものだった。 さすがにこの時期に六人分の食事を作ってもらうなんて、こっちの方が悪いと思ってしまう。皆口々にそう云いながら、テーブルに並んだ美味しい料理に舌鼓を打った。 定番の骨つきローストチキンやローストビーフ。エビの洋風マリネや帆立の香草焼き。緑色をした不思議なスープはブルーチーズが入っているらしかった。どれもプロが作った料理らしい手間暇が掛けられていて、つかさとあやのはレシピの当てっこをして盛り上がっていた。 ――少しだけ、ワインなんてものも飲んでみたりして。 こなたは、お酒を飲むとすぐに顔が赤くなる性質なのだと知った。 ぽっと頬を染めっぱなしのこなたが本当に可愛らしくって、みんなでさんざんにからかって遊んだら、こなたはへそを曲げて被っていたサンタ帽で顔を隠してしまったのだった。 そんな風に楽しい夕食だったけれど、問題はなぜかそうじろうさんがいたことだ。 まるで当たり前のようにお誕生日席に座り、涙を流しながら『メリー女子高生!』なんて叫ぶ小父さんは、本当にあの日煙草をくゆらせながらウィスキーを飲んでいた人と同一人物なのだろうか。私は深刻な疑問を持ったものだった。 こなたを始めとする私たちはなるべくそちらを見ないようにしていたのだけれど、隣の席に座ったみゆきだけは何故か大盛り上がりで、二人でずっと話し込んでいた。 なにやらポスト構造主義がどうのだとか、デリダの脱構築がどうのだとか、マジックリアリズムによる現実への反逆がどうのだとか、シニファンとシニフェの乖離により壊滅したシミュラークル性により仕掛けられた物語装置がどうのだとかいう話が聞こえてきて、近くで聞いていた私たちは何を云っているのかわからず、冷や汗を流しながらひきつった笑みを浮かべていた。 食事が終わったころにはそうじろうさんはみゆきとの会話で何かを吹っ切れたようで、さっぱりした顔をしてみゆきと握手を交わし、弾むような足取りで部屋にもどっていったのだった。 そうして部屋に戻ってきて話を再開した私たちにとって、そんなみゆきの博識振りはしばらくの間話題のタネとなったのだった。 「た、高良ちゃんが云ってたパロールとかエクリチュールとかって何なのー、何語なのー?」 「ええと、フランス語ですね。パロールと申しますのは哲学を記述するところの言語における優位な概念で、書き言葉に対する話し言葉を意味します。デリダはこの優位性を批判して、ソシュールはその構造言語学テキストにおいて……」 「もういいっ、どうせ私たちには理解できん!」 私が慌てて止めたころには、みんな泣きそうな顔でうなり声を上げていた。ただでさえ敏感な受験生たちのこと、私を含めてこれ以上自信を失ってしまったら困る。私がそう云うと、みゆきは恐縮した顔で「出過ぎた真似を……」と呟いて、小さくなっていってしまったのだった。 けれどみゆきが悪いわけじゃない。質問をしたのはあやのなのだし、みゆきはそれに誠実に答えただけなのだ。そう考えたら、私も何もあんな云い方をしなくてもよかったのかもしれない。 そんなことを思って、私もなんだか落ち込んでしまった。その時私たちは皆少しずつ落ち込んで、場の空気がしょんぼりとしたものになってしまっていた。 けれどそんなとき、つかさが大きな華やいだ声でこう云った。 「あ、みんなそろそろお腹も入るようになってるよね? ケーキ出してくるよー」 そうして、部屋は歓声と拍手に包まれたのだった。 本当に、つかさは色々と気が回るようになったなと私は思う。ほんの半年前までは引っ込み思案で要領も悪く、その優しさを上手く発揮することができなくて誤解されることも多かった。友達との間でも、こんな風に自分で場の空気を変えようと発言することなんてできない子だったのに。 部屋の外、階段を上がっていく小さな足を見つめながら、私は誇らしさとほんの少しの寂しさで、胸が一杯になってしまっていたのだった。 けれどそんな私にこなたが近寄ってきてこう云った。 「かがみ、なんでつかさのぱんつ覗こうとしてんの?」 ――こなたの頭に大きなたんこぶができたことは、云うまでもないだろう。 「おおおーー!!」 つかさがケーキの箱を取り外した瞬間、皆の口からそんな歓声が上がった。手間が掛かったデコレーションケーキが出てくるだろうと思ってはいたけれど、これは予想外だった。 「す、凄いじゃない。そっか、前から作ってたのはこれだったのね」 「えへへ、お姉ちゃんにばれないように作るの大変だったよー」 デコレーションケーキに乗っているのは、チョコでできたログハウスと、樅の木を模した小さなロウソク。そこまでは予想ができたことだった。 けれどその家の周りで遊んでいる、マジパンで出来た小さな人形までは思いつきもしなかった。 その六体の人形は、それぞれ私たちにそっくりだったのだ。 「つ、つかさにモデラーの才能があったとは!」 「オテラー? 家はお寺じゃなくて神社だよ?」 「いやいやそうじゃないだろ」 「すっげーなにこれ、ちゃんと冬服のカラーまで出来てんじゃん、ありえねー」 「本当に凄いです。私の眼鏡なんて、氷砂糖で出来ているようですよ」 「色つけには、食紅使ってるの?」 「うん、一応全部天然色素を使ってるよ。紫は色素がなかったから、クチナシと赤キャベツを混ぜてあるのー」 ――ほー。 目を丸くして、改めてケーキを見つめる私たちだった。 「そ、そんなにまじまじ見られても照れちゃうよ……食べよ、ね?」 顔を真っ赤にしながらつかさは包丁を取り出して、六等分に切り分け始めた。 「……でもこれ、誰が誰を食べるー?」 けれどこなたがぽつりと呟いて、つかさは動きを止めたのだった。 「……確かに、よく出来てるだけにちょっと食べづらいわ……」 「か、考えてなかったよぉ……」 「あーほら、自分で自分を食べればいいんじゃないの? ね?」 「そ、そだね!」 そんなこんなで、今私たちの前にはそれぞれの人形が乗ったケーキがお皿に乗せて出されているのだ。 顔を近づけてよくみると、本当に細かいところまでよくできている。私のツインテールはちゃんと頭から伸びているし、髪をくくったリボンもいつもつけている色だった。人形の私は酷く優しそうな眼をして、ニコニコと満面の笑みを湛えている。 ――なんだか凄く気恥ずかしい。つかさにとって私はこういうイメージなんだな、そう思うと自然と頬が熱くなっていくのを感じてしまうのだ。 周りをみるとみんな同じように思うのか、照れくさそうにして自分の人形を見つめているのだった。 「あっはっは、あやのすげー。ちゃんとカチューシャしてんじゃん!」 けれど大口を開けて楽しそうに笑っていたみさおが次に起こした行動は、私たちの空気を一変させるものだった。 「あー!」 そんなあやのの大声に、皆が二人の方に注目する。見ると、まさにみさおがあやのの人形を自分の口の中に入れたところなのだった。 「み、みさちゃんが、わたしのこと食べちゃった……」 なぜか顔を真っ赤にしながら、呆然と呟くあやのなのだった。 「ごっそーさん」 口の脇についた生クリームをぺろりとなめ取って、みさおがそう云った。 「もー! なんで食べちゃうのよ、みさちゃんのばかっ」 「えー、だってあやののが美味そうだったんだってば!」 「そ、そんなの変わるわけないでしょ、中身は同じマジパンなんだもん」 「なんだよー、ならいいじゃんか、わたしのをあやのが食べればいいだけだろー」 「もう、そういう問題じゃないの! 少しは空気読め!」 あやのは、ぽかぽかと子供みたいにみさおを叩き続けていた。 ――確かに、あやのが云った通りだったのだ。 みさおの行動により、残された私たちの間に漂う空気は、微妙な緊張感に満ちた物になってしまっていた。 そうしてそんな微妙な空気をあらがいがたく確定させてしまったのは、またしてもつかさなのだった。 「ゆ、ゆきちゃん、それ食べていい?」 「あ、え、は、はいっ。こ、交換しましょうか」 顔を真っ赤にしてお互いのケーキを交換するつかさとみゆきを前にして、私は追い詰められたような気持ちになっていた。 ちらと隣を見ると、こなたも憮然とした表情をしながら、それぞれの人形を口に運ぶつかさとみゆきを眺めているのだった。 ――こいつは、一体何を考えているんだろう。 そんなことを思いながらこなたのことを見ていたら、ふとこちらを振り向いたこなたと眼が合った。 ――頬が、まだ赤い。 さっき飲んだワインが、まだ残っているのだろうか。そんなことを考えた私の前でこなたは逡巡するように眼を泳がせたあと、いつもの猫口になってからかうように云いだした。 「ほれほれかがみ、私たちも交換しようって云わないの?」 「は、はぁ!?」 ――云うにことかいて何を云い出すんだこいつは。 「かがみのことだから、どうせわたしの方食べたいって思ってるんでしょ。ほら、わたしの方が長髪の分ちょっと量多いし?」 「なー! んなわけがあるか! そう思ってるのはあんたなんだろ、素直にそう云えよ!」 「な、なんでわたしが云わないといけないのさ! 別にそんなことしたくないもん!」 「なら、私だって別にしたくないわよ!」 ――ふん! そう云って、鼻息荒く顔を背ける私たちだった。 どうしていつもこんな風になってしまうんだろう。そんな思いが心の中に湧いてきて、私は少しだけ悲しくなってしまった。 けれどこれはいくらなんでもこなたの水の向け方が悪すぎた。あんな風に云われたら、私だって素直な気持ちを伝えることなんてできやしないじゃないか。あんな云い方じゃなければ、私だってこんな心にもないことを云わなくてもすんだのだ。 ――普段は私をコントロールするのが上手いのに、どうしてこんなときだけこいつは不器用なんだ。 そんなことを考えながら周りに眼を向けると、つかさもみゆきもみさおもあやのも、何故か物問いたげに私の方をじっと見つめているのだった。 ――なんで私なんだよ! 理不尽だ。なんだか酷く理不尽だ。 釈然としない思いに駆られながらも、やけになった私はおもむろにこなたの人形をひっつかんで口元に運ぶ。小さく口を開いたところで、これは囓り辛いなと思って一口で頬張った。 ふわりと甘さが広がって、けれど決してくどすぎない。マジパンにあんまり美味しい物だというイメージはなかったけれど、これは普通にスイーツとして美味しくて、つかさの腕前にびっくりしたものだった。 「――なんだー、やっぱり食べたかったんじゃん」 途端に機嫌を直して、ニマニマと笑いながら口元に手を当てるこなたなのだった。改めて、ツンデレのキャラ属性はこなたにこそふさわしいと私は思った。 私は紅茶をごくりと飲み込んで、そうしてこなたに云い放つ。 「そうよ、悪かったわね! あとついでに云っておくけど、サンタ服可愛いわよ、このばかっ!」 やけくそになってそうまくし立てると、こなたの顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていく。 よく考えればワインのアルコールなんてとっくに醒めてるはずなのに。 こなたの頬の赤みは、その後も中々消えなかった。 ――そうして私は、もしかしたらつかさは正しいことを云っているのかもしれないと、その時少しだけ思ったのだった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 『4seasons』 冬/きれいな感情(第九話)へ続く コメントフォーム 名前 コメント 今からでも遅くないので、OVA 化して発売して欲しいです。 6枚組で39800円位で!! -- チャムチロ (2012-08-17 20 39 01) 登場人物のキャラをよくつかんでいると思う。 作中に出てきた『ハグルマ』よんでみたいです -- 名無しさん (2010-10-02 10 42 42) いのり姉さんは俺の彼女 -- 名無しさん (2008-08-08 15 37 25) GJ!相変わらず面白い。ところで100%ナイナイを聞くと、この作品を思い出すのは俺だけ? -- 名無しさん (2008-07-09 08 14 02) たまたま寝る前に第一話を読み始めたのが運の尽き。 気付けば夜が明けてました。(自分の読む速度が遅いのも重大な要因ですが… それにしても、この作品は上手い。 各季節のモチーフの設定とストーリーとの絡め方、複数のキャラクターに オリジナルのバックグラウンドを持たせる程大胆な創作部分を含みながら、 その実決してアニメの世界観から完全には逸脱しないキャラクターの設定、 アニメ本編で使われても遜色ないような絶妙な掛け合い、ストーリーに 直接関係ないように思える細かな情景描写にも手を抜かず、 そのお陰でキャラクターがまるで実在の人物であるかのような「厚み」を もって描かれているところ、などなど、正直、らきすたキャラを使って ここまで深い人間劇を読ませて頂けるとは思いもしませんでした。 うん。本当にうまい。お見事、としか言いようが無い。 続きも楽しみにしています。 -- 名無しさん (2008-07-09 07 03 18) それぞれのキャラの立ちいちなどがうまくて、素直によめる、この作品ほどうまい物はないとおもいます -- 名無しさん (2008-07-08 23 30 11) なんというツンデレ。 ダメだ、本作よりいいかも。 -- 名無しさん (2008-07-08 17 21 00) 夏の時点からかがみは「こなたは同性愛者か否か」という0か1かで考えすぎてる。立場上仕方ないけど -- 名無しさん (2008-07-08 14 33 11)
https://w.atwiki.jp/qma9s2/pages/121.html
2013/03/21 バージョンアップとして「QMA賢者の扉 season2」が発表されました。 賢者の扉を導入している店舗は4/1にオンラインバージョンアップにて自動的にseason2になるようです。 {※管理人より 変更点が多様に及ぶ場合は、別にwikiを立ち上げるつもりでいますので当面このページの編集でお願いします。} QMA賢者の扉からの変更点 QMA賢者の扉からの変更点新要素階級に転生仕様追加 キャラクター関連生徒キャラクター 先生キャラクター ゲームシステム ゲーム内容ボイス・BGM 初回プレー時 自キャラ情報の表示 モード選択 出題ジャンル 問題形式 予習 購買部・マイルーム 全国オンライントーナメントトーナメント参加者発表 予選 準決勝 決勝戦 リザルト 復習 協力プレー 検定試験 店内対戦モード イベント全国大会 魔龍討伐 階級 その他 新要素 階級に転生仕様追加 宝石賢者以上になると「転生」ができるようになり、キャラクターおよび名前変更ができるようになる。「転生」すると新たに「転生章」を獲得できる。 キャラクター関連 生徒キャラクター QMA賢者の扉から変更なし。21人声優は変わらず。 ゲーム中のキャラクター演出や優勝絵などが大幅に変わります 先生キャラクター QMA賢者の扉から変更なし。 ゲームシステム ディスプレイやタッチパネルはQMA賢者の扉から変更なし。(オンラインアップデートのため) ゲーム内容 ボイス・BGM 新楽曲になるようである。 初回プレー時 前作からの引継ぎ有無に関わらず、キャラクター選択→カードネーム入力(最大8文字まで)の流れになる。カードネームの最大長が6文字→8文字に拡張された(CNの文字数拡張はQMA3以来?)。 QMA8まで隠し文字だった「→」「>」「(」「)」が、CN入力画面に限り、隠しコマンドなしで入力できるようになった。英字キーボードの「X」「Y」「Z」の右隣に表示される(ただしローマ字入力方式の場合は表示されない)。 キャラクターセレクト画面はQMA8同様。7列×3段の枠にキャラクターの立ち絵(バストアップ)が一覧表示される。 画像をダブルタップするか、画像選択後「選択中のキャラクターを確認」ボタンを押すと、キャラクターの立ち絵・プロフィール・ちびキャラが表示される。一覧表示で「!?」を選択すると、一覧からランダムに選択される。 ちびキャラをタッチすると、任意のキャラクターのボイス(3パターン?)が聞ける。 レオン ルキア ラスク アロエ ユウ ヤンヤン リエル セリオス シャロン サンダース マラリヤ ハルト アイコ ミュー カイル クララ タイガ ユリ リック メディア マヤ QMA8から引き継ぎの場合、ゲーム開始時と同時に引き継ぎアイテムが支給されるのは従来通り。組の引継ぎは、マッチングシステムの変更(後述)により以下の通りとなる。フェアリー組⇒フェアリー組Lv.1 ユニコーン組⇒ユニコーン組Lv.1 ガーゴイル・ミノタウロス組⇒ガーゴイル組Lv.1 フェニックス・ドラゴン組⇒フェニックス組Lv.1 自キャラ情報の表示 「CN、階級など」「正解率グラフ」「検定試験」「協力プレー進捗状況」の4つを表示。正解率グラフにグラデーションがかかるようになった。 レイアウトはQMA7~8とほぼ同じ。 組・レベル ちびキャラ 学籍番号 階級 カードネーム 魔龍討伐オーブ 地域 学校名 所持マジカ 情報切り替え(ボタン) [情報切り替えボタンを押すごとに]CN・階級等→正解率グラフ→検定試験→クマフィー取得率→協力プレー→サークルの順にループ。検定はランクごとにアイコンが表示される形式になった。 モード選択 以下の通り。 残り時間 購買部 マイルーム インフォメーション 四人対戦 全国オンライントーナメント イベント 協力プレー アカデミーアドベンチャー 検定試験 キャラ情報 「サークル活動」は「四人対戦」および「協力プレー」に統合された模様。 出題ジャンル QMA8と同様。 問題形式 新形式「グループ分けクイズ」が追加。3つ~5つの選択肢を、2つor3つのエリアに正しくグループ分けできれば正解となる。 選択肢は左右のタッチ、またはフリックでエリアを移動できる。(タッチとフリックで効果音が異なる) 「自由形式」に、「ランダム」を組み込めるようになった。 予習 QMA6~8と同様、無保証予習の最中にトーナメントに召集された場合、フェードアウトが終わるまでに合格点を超えていれば合格扱いになる。上記のパターンで難易度が上昇した場合、直後の決勝戦でも上昇した★の数が適用される。 ★の数を上げる為の必要合格数は、QMA8と同様。 難易度 難易度上昇条件 ★★★★★ - ★★★★ 4回合格 ★★★ 3回合格 ★★ 2回合格 ★ 1回合格 予習の周回数が、「残りX回」と明確に表示されるようになった。 PASELIを使用して、予習回数を1回増やすことが出来る(1クレあたり最大5回まで)。予習1周目開始前に、1回ずつ購入する形となる。2周以上設定の店は、1回終了後も購入可能。 必要ポイント数(標準設定は20P)、回数は店舗側で設定可能? これとは逆に、「予習を飛ばして、即マッチングに入る事」も可能となった。PASELIで増やした後も、予習を飛ばす事は可能(この際、返金はされない)。 グループ分けの追加により、予習形式の開放順序が以下のように変更。 修練生 ○×・四択・連想 見習魔術士 並べ替え・文字パネル 初級魔術士 スロット・タイピング 中級魔術士 エフェクト・キューブ 上級魔術士 順番当て・線結び 魔導士 一問多答・グループ分け 大魔導士 サブジャンル 賢者 ランダム 購買部・マイルーム QMA7~8と同様に、マジカ用の購入画面とPASELI用の購入画面が別々になっている。協力プレー用のお助けアイテムは、PASELIでのみ購入が可能。 お助けアイテムの残り個数は、マイルームで確認することができる。 ガイド役選択の画面で、先生の立ち絵とプロフィールが表示されるようになった。 PASELI用の購入画面に限り、リエルのリアクションが増える。 リエルのちびキャラの胴体部分にタッチすると涙目になるが、閉店にはならずそのまま続行。「購入」ボタンを押す(キャンセルしてもOK)か、上記の踊りが発生すると元に戻る。 QMA4、5のように複数回タッチしても強制閉店にはならず、予習の回数が減る事はない。(QMA5までは強制閉店になった場合、全ての予習回数を消化した事になっていた) アイテムに色データが付与されており、赤や青などの色ボタンをタッチすると対応した色合いのアイテムが出る。これによりカラーを揃えたコーディネートがしやすくなった。 アイテムの装備位置が細分化され(頭部アクセサリーが3種類から4種類(頭・目・口・耳)に、その他アイテムが2種類(体につける・つけない)から5種類(胸・前腰・背中・後ろ腰・体につけない)に変更)、カスタマイズのバリエーションが大幅に増えた。 全国オンライントーナメント ライバル機能追加マッチング頻度の高いプレーヤーが「ライバル」として自動で登録されます。 ライバルとのバトルに勝利すると、魔法石を通常より多く獲得できます。 マッチングシステムが更に変更される。 全国オンライントーナメントの組の昇降条件が変更され各組のレベルも3分割になり、よりプレーヤーの実力にあった対戦が楽しめます。 組の「レベル」がLv.1~5の数字から、ドラゴン組 ナイトドラゴン組 キングドラゴン組の3種に変更になる。トーナメントの難易度は組ではなく「杯(カップ)」という名称で表すと思われる。 現時点で「ガーゴイル組Lv.1」以上に所属している場合は、一律「ガーゴイル組」所属に実質リセットになることから昇降格条件がかなり変更される物と思われる。 トーナメント参加者発表 QMA8と同様、4行×4列で一度に表示される。自キャラは右下固定のため、自分がホストがどうか判断できない点は変わらず。 ちびキャラにタッチするとボイスを発する。発声中に別のキャラにタッチしてさえぎることも可能。対戦相手の所属組・レベルが表示されるようになった。 予選 QMA8と同様、前半・後半各5問100点ずつ、計200点満点。 準決勝 QMA8と同様、前半4問+後半4問(5問目でジャンル・形式が変わる)。 決勝戦 形式選択画面が変わった(グループ分けの追加)ことを除けば、ほぼQMA8と同様の画面構成。 カットインの絵がリニューアルされる。 オンライントーナメントの決勝戦に参加する4名のプレーヤーの条件により、同キャラクター同士の「キャラクター記念」や同形式同士「形式記念」など、突発イベントが発生します。 リザルト トーナメントの結果に応じた組経験値によってレベル・組が変化する。経験値は予選落ち(11位以下)で下がり、準決勝進出以上で上がる模様。(ドラゴン組LV2まで)ドラゴン組LV3になると決勝に進まない限り経験値が減る可能性あり。 16位敗退で最も大きく経験値が下がり、対人フルゲのグランドスラム(予選・準決勝で区間賞を取り優勝)で最も大きく経験値が上がる。 区間賞、優勝時に経験値ボーナスがある模様。 マジカ授与の表示がスキップできるようになった。 トーナメント優勝時のプラチナメダルの支給内容が「ドラゴン杯で1枚、ハイクラスドラゴン杯で2枚」と変更となった。 復習 QMA8と同様に、PASELI使用時はトーナメント終了後に復習が可能。(必要ポイント数は店舗によって異なる。標準は20P) 1回につき6問復習できるようになった。(前作は5問) 協力プレー QMA7ではダンジョンを降りる、QMA8では塔を登るという形式だったが、賢者の扉ではフィールド探索と言う形になる。プレー中の「階」表記は「エリア」に変更される。 コンティニュー後、QMA7ではちびキャラが目の前の階段を降りる、QMA8では後ろの階段を登っていく演出があったが、本作では左方向へ走っていく演出になった。 「お助けアイテム」についてもQMA8と同様に使用できる。「叡智の書」「解析の天秤」「刻戻しの砂時計」「絆のルーペ」「想伝のメガホン」の5種類で変更なし。 「想伝のメガホン」の演出が変更された。QMA8ではメガホン専用の回答枠が表示されたが、今作ではメガホンを使用したキャラの回答枠が強調される形になる。 「叡智の書」の効果が強化された。文字パネルクイズは3枚のパネルが減少。 スロットクイズは各リールで2文字ずつ減少。 キーボード系のクイズは正解の2文字目まで表示。(正解が2文字の場合は1文字目のみ表示) リザルト画面のアイコンチャットの「残念」が「ドンマイ」に変更された。 ボスを倒すと「お守り」を獲得することがある。装備することで特定の形式の獲得できる点数が上下する。 踏破エリア数または総得点が自己ベストを記録した場合、リザルト画面で「★更新!」と表示されるようになった。 最終エリアに到達してもプラチナメダルが貰えなくなった。ボス撃破時の1枚のみ引き続きもらえる。 ランキング集計期間終了後、そのダンジョンは「EASY」モードとなり討伐ノルマが下げられ、次の1ヶ月間もプレーできるようになった。 検定試験 Sランクの上に「SSランク」が登場。 スコア・獲得魔法石は、以下の通り。 ランク スコア 獲得魔法石 SS 3000点 40個 S 2500点 30個 A 1500点 20個 B 800点 10個 C - 5個 ランキング対象となる検定のプレイ可能期間が、次の検定のランキング集計期間が終了するまでのおよそ2ヶ月間となった。 また、1ヶ月単位で過去に登場した検定を「検定アーカイブ」としてランキング対象外でプレー可能になった(こちらはほぼ月替わり)。ランキング対象2種類、アーカイブ6種類の計8種類から選択する事になる。 店内対戦モード 8では対戦相手待機中の画面でグラフ等の諸情報の表示ができなかったが、今作では7と同様に待機中の画面でグラフや検定ランクなどの情報確認が再びできるようになった。 対戦後の結果画面で、各セットの得点に加えてそれぞれ選ばれたジャンルと形式が表示されるようになった。 イベント 全国大会・魔龍討伐が「イベント」として扱われる。 全国大会 魔龍討伐 階級 宝石賢者までの階級と必要魔法石は前作と同じ。 宝石段位と天賢者に必要なプラチナメダルは400枚(8は300枚)。 白金賢者のイメージカラーが淡赤色から淡青色に変更されている。 その他
https://w.atwiki.jp/gitadoraweekly/pages/196.html
※内容に相違・漏れがある場合や、プレイヤー名を変更したい場合は@gitadoraweeklyへ御申告願います。 楽曲 SEASONS Yusuke Hiraga 難易度 BAS ADV EXT MAS BPM 2.20 5.00 6.30 7.50 150-200 Rank PlayerEntryName Part Level Rate Skill Score Combo PlayerID 1位 ぴーちゃん MAS 7.50 99.17% 148.75 1003200 1125 曲別 HOT Rankingへ Topページへ
https://w.atwiki.jp/kairakunoza/pages/2235.html
『4seasons』 冬/きれいな感情(第九話)より続く ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― §18 ――風邪、引いちゃうね。 ――引いちゃうよね。 私とこなた、二人でおでこをくっつけて。 雪の中、そんなことを呟いた。 全然面白いところなんてないのに、真面目な顔をしたこなたがなぜだか私はおかしくて、一人くすくすと笑った。 風邪なんて、もう引いてしまってもいいかなと思っていた。そんなことよりここでこなたとじゃれ合っていたかった。雪に埋もれながら、どうでもいいことで笑い合っていたかった。 「ほらかがみ、しっかりしてよ」 けれどこなたは苦笑しながらそう云って、すっくと立ち上がると私に片手を差し出した。私はと云えば、突然こなたの身体が離れてしまったのが悲しくて、呆然としながらその顔を見上げていた。途端に襲いくる急激な寒さに、どれだけこなたの身体が温かかったのかを思い知っていた。 私が動けないでいると、こなたは私の腕を掴んで強引に立たせてくれた。そうして私の肩を取って、私と一緒に歩きだす。返ってきた、こなたの身体の暖かい感触。それに安心しながら、一歩一歩私は歩いていく。 足を踏み出すと、降り積もった疲労に足ががくがくと笑い出す。溶けた雪がブーツの中まで染みていて、地面に足を衝く度ぶじゅぶじゅと音を立てていた。その感触が酷く気持ちが悪かった。その感触が気持ち悪いと思うほど、私は冷静になっていた。 ――こなた。 こんなときすぐに冷静になれるのは、やはりこなたの方なんだなと思う。いつも漫画とかアニメのことばかりで、萌えだとかフラグだとか夢みたいなことばかり云っているけれど。それとは違う次元で、こなたはどこかこの現実をシビアに、冷静に、客観的に眺めているように思う。 こなたは、自分自身すらまるでアニメの登場人物みたいに扱っている。そんな気がした。 だから根っこの部分ではどこかいつも冷静で、そうして悲しくなるほどに自己実現しようという欲求が低いのかもしれない。 私も含め、ほとんどの人間にとって一番大事な存在は自分自身であるはずだ。いくら周りの人を大事に思っても、そのように周りの人を大事に思う自分がいつだって世界の中心にあるはずだ。 けれどこなたは違う。 こなたの中の優先順位では、いつだってこなた自身は最下位だ。賑やかで明るくて私たちをいつも振り回しているように見えるけど、こなた自身の眼差しはいつだって自分自身には向けられていなかった。“誰々が萌え”だとか“誰々のこんなところが見たい”とかそのような話題ばかりで。 こなたはいつでも周りのことばかり見つめていて、アニメや漫画の世界に逃げ込んで、自分自身のことはまるで物語の端役のように無視し続けていた。 家事は得意なはずなのに、自分のことになるとぐうたらになる。 料理も得意なはずなのに、自分が食べるのはいつも栄養なんて無視したチョココロネばかり。 運動も得意で頭もいいはずなのに、自分の可能性にはまるで興味が湧かないように無頓着だ。 他人のことは萌えだとか可愛いとか云ってすぐ褒める癖に、自分のことは少しも磨こうとしなかった。少なくとも、今年の夏頃までは。 ――こなた。 なんでだろう。そう考えると、こなたのこの小さい身体が、高校生にしては余りにも幼いその身体が、こなたが自分自身に与えた罰のように思えてきてしまうのだ。 「――痛いよかがみ」 「あ、ごめん」 いつの間にか、肩に回していた腕で、こなたのことをぎゅっと抱きしめてしまっていた。 こなたはそんな私を見て、困ったような顔をしている。あの夏の日に、寝ぼけて私が抱きしめてしまったときのように。 「――ごめんね」 そうしてもう一度謝ると、そんなこなたの困り顔が、泣き出す寸前の子供のようにくしゃりと崩れていった。 そんな顔をして、こなたは呟いた。 「謝らないといけないのは、わたしだよ」 冬の夜、白い吐息とともにこなたが吐きだした言葉は、雪の中に消えていく。 ――角を曲がると、泉家はもうすぐそこだった。 §19 もくもくと湯気が立ち上り、天上付近にうがたれた換気扇に吸い込まれていく。 湯船の中、腕を動かすとピリピリとお湯が肌を刺す。痺れるような痒いような、そんな変な感覚。よほど身体が冷えていたのだろう、あのままあそこにずっと座っていたら、風邪だけではすまなかったかもしれない。そんなことを考えた。 雲のように立ち上る湯気の向こうで、こなたが身体を洗っていた。青い長髪をタオルでまとめて、珍しくうなじが剥き出しになっている。 その細い首筋。薄い背中。風呂椅子に潰れた小さなお尻。うっすらと見えるあばら骨。 胸の膨らみは記憶にあるものよりも随分と女らしく膨らんでいて、私はそれがちらりと見える度に安堵感を覚えるのだった。ただ少し成長が遅いだけで、こなたもいつかちゃんと大きくなれるのかもしれない。そんなことを期待して。 夢にまで見た、本当に夢にまで見たこなたの裸だったけれど、不思議と動揺することはなかった。それは勿論凄くどきどきしたし、抑えがたいような疼きを感じたりもしたけれど。けれどそんな気持ちは心の薄皮の下にうごめくだけで、私の表面まで吹き出してくることはなかった。 ただ愛おしかった。 こなたの身体がこうして動いていることが、私はただ愛おしかったのだ。 勿論、望んでこういう状況になったわけじゃない。 私がこうしてこなたと一緒にお風呂に入ることになったのは、半ば不可抗力によるものだ。 ぐしゃぐしゃになりながらなんとか泉家に戻った私たちは、そうじろうさんにバスタオルを出して貰って、てんやわんやになりながら浴室まで辿り着いた。できる限り水気はしぼったけれど、それでも廊下にぺたぺたと自分の足跡がついてしまい、それがなんだか凄く恥ずかしかった。 私もこなたも酷く冷え切っていたから、どちらが先に入るかで少しもめた。けれどこなたは実力行使も辞さないという様子だったし、実際に抵抗むなしくジャケットをはぎ取られてしまったので、仕方なく自分で脱いだのだ。そんなつもりがないこなたに脱がされるなんて、なによりも厭だった。 そうして私が流し湯を掛けて湯船に浸かったところで、こなたも一緒に入ってきたというわけだ。 お互いに身体が冷えていたところを先に入らせてもらった手前、こなたのことを追い出すなんてできるはずもない。だから私たちは湯船の中、ずっと背中合わせで暖まっていた。 冷え切ってこわばっていた身体が、少しずつほぐれて溶けていく。それは勿論お湯の暖かさのおかげだったけれど、私にとっては、こなたの背中が伝えてくる温もりの方がよほど暖かいと感じていた。触れあった箇所が、熱を帯びたように熱かった。 私もこなたも、あまり喋らなかった。けれどそれは気まずい沈黙が続いていたわけではない。夏にすれ違ったときのように、それ以前に私がこなたに対して示していたように、あるいはあの日太宮で男の子と会ったあとのこなたのように、云いたいことはあるけれど口にはだせないというような、そんな沈黙ではなかった。 お互いに何をどう伝えようか、いつ伝えようかと考えながら、今はそのときじゃないと思ってタイミングを計っている。いつか云うことがわかってるから今はまだ喋らない。そんな穏やかで饒舌な沈黙が、私たちの間に流れていた。 「――ねえ」 しばらくぶりに、こなたが口を開く。 「んー?」 「わたしの裸、見ててそんな面白い?」 髪の毛をわしゃわしゃと洗いながら、こなたは困ったような顔をして私に云った。最近よく見るようになったこの顔が、実のところ私にはよくわからない。こなたが何に困っていて、どうしてそんな顔をするのか。私にはそれがよくわからない。 「面白いわよ。他人が身体洗ってる所なんて普通あんまり見られないじゃない。ふふ、こなたって、身体洗うとき右足から洗うのね」 私がそう云うと、こなたの困り顔がみるみるうちに赤くなっていく。もう、困ったような顔にはまるで見えない。その顔に浮かんでいるのは、ただひたすらに含羞だ。 それもまた、私にはよくわからない。裸を見られるより、普段どこから身体を洗うかを知られる方が恥ずかしいのだろうか。こなたが恥じらいを感じるポイントが、私にはよくわからない。 そう思って首を捻る私の前で、こなたは照れを振り払うように頭からザーっとお湯を被った。 よくはわからないまでも、そんなこなたがなんだか可愛くて、私はくすくすと笑った。 こなたも自分が笑われているのに気がついて、照れくさそうにしたままくすくすと笑った。 ――そうして私たちの間の沈黙は、それ以降、また少し饒舌なものになったのだ。 「クリスマスプディング余ってたけど、食べる?」 「おー、食べる食べる。丁度ちょっと小腹空いてたところよ」 「むふー。これ以上太っても知らないけどね」 「な、なんだと! そ、そそそそれはどういう意味だ!」 「そりゃ勿論、そういう意味だよ?」 「え、ほ、ほんとに? そんなに私太ってた? ね、ねぇ、ちょっと」 さっきの仕返しだったのかもしれない。追いすがる私をひらりとかわし、こなたは口元に手を当てながら二階に上がっていった。 こなたの部屋は、今となっては少しだけもの悲しい部屋だった。 つい四十分ほど前の楽しかったクリスマス会の名残がまだ残っていて、お菓子の空き箱や広げられた漫画本やケーキに立っていたロウソクなどを見る度に、みんなの笑い声が頭の中に蘇ってくる。机とベッドの間に置かれたクリスマスツリーは、電飾こそ光っていないものの、未だにオーナメントやモールが賑やかに飾られていた。いかにも祭りの後という有様に、私の胸が少しだけ切ない音を立てて鳴きだした。 せっかくだからと辺りを少し片づけているうちに、こなたがドアを開けて戻ってくる。お盆に乗せられているのは、夕食のときに出たクリスマスプディングと、湯気を立てているココアだった。 十分暖まっていたつもりだったけれど、甘くて暖かいココアは疲れきっていた身体に染み渡るように美味しくて、私は生き返った気持ちになっていた。 「くくく、やっぱりかがみんがそんな格好してると、なんか笑っちゃう」 「うっさいなっ、元はと云えばあんたの服だろっ」 さすがに恥ずかしくて、私も顔が熱くなっていくのを感じていた。こなたから借りたスウェットパンツはふくらはぎまでしかなくてレギンスみたいになっているし、トレーナーはTシャツみたいにぴっちりと身体に合っている。ブラなんて勿論つけられるものは何もなくて、寝るときもブラをする派の私としてはなんだか妙に落ち着かなかった。 落ち着かないと云えば一番落ち着かないのがショーツだ。こなたは一度も穿いていないと云っていたし、実際に値札がついていた以上その通りなのだろうけれど、フリルレースに薔薇飾りのリボンがついた純白の横ひもショーツなんてものが、どうしてでてくるのだろうと思った。どうしてこなたがそんなものを買っているのだろう、一体いつ穿くつもりだったのだろう。そんなことを考えるとなんだか胸がどきどきしてしまって、私は酷く落ち着かない気分になってしまうのだ。 ――けれどそんな全ても表面的なものにすぎない。 私もこなたも、きたるべくそのときにむけて、心のどこかを緊張させたままそんな話を続けていた。 ――ほら、今だって、カップを持ったこなたの手が少しだけ震えている。 そうしてこなたはココアを飲み干すと、そっとカップをソーサーの上に置いた。その表情はさきほどまでとはうって変わって、なんだかとても悲しそうな顔だった。 それはあの春の日に、桜の下で見かけた少女のように。 「――どこから、話したらいいのかな?」 「話しやすいところからでいいんじゃないの?」 ――そだね。 そう云って、こなたは大きく息を吸って。 語り出した。 §告白 ――わたしは、昔からどこか他人と違う子供だったんだ。 ううん、かがみに云わせれば、『確かに普通の子は、あんたみたいにオタクなグッズ買いあさったりしないわよね』とか思うかもしんないけど、そういうんじゃなくて。 最初にそれに気がついたのは、多分小学校五年生くらいのときだったと思う。あれ、でもそう考えるとそんなに昔でもないね? じゃあちょっと前から? あ、でもそう云うと今度はつい最近みたいだね。 うーん、ごめん、あんまり上手く話せないや。かがみみたいに理路整然と話せたらいいんだけど。 うん、かがみの話って凄くわかりやすいよ。すぱっと結論から云ってくれるし。メールでもさ、いつも文章構造がしっかりしてて、“てにをは”も間違わないし――って、またずれてるや。 あ、うん、あんがと。わたしなりになんとか説明してみるね。わかりづらかったらごめん。 ――小学校五年生のときだった。 クラスの女の子で集まって、好きな人の話をしてたんだ。わたしはそのグループともの凄い仲がいいってわけじゃなかったけど、なんとなくいつも周りに顔を出してた。そういう関係作るのが得意だったんだよね。空気っていうほど軽くないけど真っ先に声が掛かるほど近くない、そんな感じで色んなグループにいるのが得意だったんだよ。 ん、だよね。今と正反対。まさか高校生になってから親友なんてものが一遍に三人も出来るなんて思わなかったよ。三年になってからはあやのんやみさきちとも仲良くなれたし。 ――好きな人の話をしてた。 わたしはまた最後から二番目くらいの一番目立たないところで発言しようと思ってたけど、なんかちょっと仲良い子が二番目にわたしに振っちゃって。みんなの話聞いてからそれに合わせようとしてたわたしはどんな話をしたらいいのかわからなくて、慌てて変なこと云っちゃった。 わたし、女の子の名前を挙げちゃった。 一番仲が良かった、隣のクラスの女の子の名前を挙げちゃったんだ。 そのときのしらけた空気、今でも思い出すと時々膝が震えるよ。 幸いだれかが冗談めかして突っ込んで、ギャグになったからよかったけど、内心ずっと冷や汗ものだった。 あ、違う。そういう意味じゃないから! ああもう、なんでよりによってこんな云い方しちゃうんだろわたし……。別にわたしは女の子が好きだってことを云いたいんじゃないんだよ。そうじゃなくて、なんていうか。 わたしには、人を好きになるっていうことがよくわかんなかった。 まあでも、五年生だとそんなもんかなって気もするよね。他の子だって、そんなよくわかって云ってるって感じでもなかった。どっかの少女漫画とか雑誌の受け売りみたいな話ばっかりしてて、本当の恋なんて話じゃなかったと思う。 ――それでも、わたしみたいに性別を間違えた子なんて、一人もいなかった。 そんなことが何度かあって、わたしは、より一層注意深く演技するようになったんだ。 ――どったのかがみ? なんか凄い怖い顔。 ん、わかってる、あんがと。 そうだよね。みんなそんな感じだとは思うんだよ。きっと完璧に世界に溶け込めてる人なんてどこにもいないんだよね。みんな少しずつ演技して、場の空気を壊さないように心にもないことでも云ってるんだ。 でもわたしが特にそんな風になったのは、片親だったからっていうのがあるのかな。やっぱりちょっと普通と違うから、特別扱いされたりすることも多くって。だから、自然と目立たないように目立たないようにって。子供なんて残酷だもん、ちょっと間違えたらいじめの対象になりかねないよ。 ――また、怖い顔。 ――あ。 ん。淋しくなっちゃったのかな? ぷくく、暖かいなぁ、かがみは。 そなの? 子供の方が体温高いんだ? ってあれ? なんかわたしまた子供扱いされてる! んー、なんでそうなるんだろね、代謝とかそういう関係? 今度みゆきに訊いてみようかなー。 ――そんな感じで中学生になって。 でもわたしは相変わらず人を好きになるって気持ちがよくわからなかった。 ううん、好きだっていうのは思うんだよ。あの子は可愛いとか、あの子は格好いいとか、優しくて好きだとか、ツンデレで好きだとか、そういうのはわかるよ。 でもつき合うっていうのがよくわかんない。 保健体育で習ったようなこと、知識としては知ってたけど、どっか遠い世界の話だって感じてた。アニメとか漫画でいつか主人公が立ち向かうような試練。そんな風に、今はまるで想像がつかないけど、いつか大人になったらそういうことがあるのかなぁって漠然と考えて。 あ、ちなみにかがみは可愛くて格好良くて優しくてツンデレだから好きだよ。 ――おー、真っ赤だ。ぷくく、最近かがみ、弄ってもあんま照れてくれないからつまんないんだよね。 え? 卑怯? 何を云うのさ、油断してたかがみが悪いんじゃん。わたしはいつだってクライマックスなのだよ! ――それでね。 周りの子はそりゃもう、エロエロだよね。中学生なんてさ。キスとかエッチとか、どこのクラスの誰はもう経験したとか、高校生とつき合ってるとか、そんな話ばっか。 わたしも、頑張ってそれに話を合わせてた。気持ちはわかんないなりに、漫画とかじゃ普通にベッドインしたりするのもあるから、そういうのをまんま真似してね。小コミとか、もう頭がフットーしそうだったよ。 お? その反応見ると、かがみも読んでたなー。 そうだよね、そういう反応だよね。 でも、わたしはよくわからなかった。 あの行為の意味が。あの子がフットーするほど興奮している意味が、本当はよくわかってなかったんだよね。 でもわからないなりにわかってるふりをして口裏合わせてた。あの子が格好いいとか、どんな初体験にしたいだとか、キスってどんな味なんだろうだとか。 むー。当時はわたしだって、今ほど世間一般から外れてなかったんだよ。背だってちっちゃい方だったけど、もの凄くちっちゃいってほどでもなかったし。 そうそう、エロゲもね、だからよくやったよ。あれってやっぱり男視線だから色々真に受けちゃ危険だなっては思ってたけど、やってたら普通に萌えて。 ――違うって。もう、わかってないなかがみんはー。 かがみは随分エロゲに偏見あるみたいだけど、そんな“エロエロよー!”なやつばっかじゃないんだよ。そりゃ中にはそういうのもあるけど、わたしがよくやってるのは泣きゲーとか云われてるやつで、普通に最後までやっちゃうだけのキャラゲーみたいな感じだもん。結構女の子でも普通にプレイしてたりするんだよ? ――それでも、やっぱりよくわかんなかった。行為の意味は実感できなかったけど、でもなんか深い絆で結ばれたらしいカップルのことは見てて嬉しくって。だからエロゲってやってて楽しかったんだ。 そそ。それがよくわかんないから、みんなの前でも別に抵抗なく話しちゃうんだよね。かがみとかみゆきが慌てるのがおかしくってさ。なんか恥ずかしがってる二人が可愛くってさ。 つかさは……本当にわかってないのかな? ん、勿論そうだよ。そんな話するの、みんなの前でだけ。他の子に溶け込むためのリサーチだったんだもん。そんなこと口に出して退かれてたら元も子もないじゃん。 そんな感じでわたしは“そのこと”を隠しながら、なんとかクラスに溶け込んでた。今になって思うと“そのこと”の意味がわかったりするんだけど、当時は別に“そのこと”が特に変なことだって思ってなかったんだ。 だって、溶け込むために演技するっていう意味じゃ、他のことと変わんなかったから。クラスのみんなが笑ってたら、わたしもおかしくもないのに一緒に笑って。グループのみんなが見てるテレビ番組をわたしも見て。友達が嫌ってる子のことを、わたしも一緒に嫌いだって云ったりした。 ――そんなもんだよね。かがみとかつかさとかみゆきみたいな子なんて、そうそう滅多にいないんだよね。 それでも、仲がいい子はできたんだ。五年生のときに“好きな子”ってわたしが云っちゃった女の子。覚えてる? いつかわたしが中学のとき仲がいい友達がいたって云ったこと。 そそ、その魔法使いちゃん。その子もオタクでね、よく話が合ったんだ。優しくて、でも行動力があって、考え方もしっかりしてて、わたしは好きだった。オタクな趣味なんてやっぱりクラスじゃ表にだせないから、よく帰り道に権現道堤を歩きながらCCさくらの話なんかしてた。わたしは断然知世ちゃん派だったんだけどその子は小狼が可愛いって云ってて、カップリングでよく揉めたなぁ。 ――それともう一人。 男の子と、仲良くなっちゃった。 わたしはやっぱりそんなことがよくわからなくて、みんなが“男の子”と“女の子”の間ですっぱり線を引いてるのがよくわからなくて、だから普通に仲良くなっちゃった。 うん、そう。太宮で会ったあの男の子。 ――初めから、わたしのことが好きだったみたい。 子供だったんだわたし。 わからないならわからないなりに、ちゃんと考えてればよかったのに。いつか自分の身にもふりかかるかもしれないことだって、ちゃんとわかっていないといけなかったのに。わたしはそんなこと、友達同士の話題の中にしか存在しない出来事なんだと思いこんでて、一度も真剣に考えたことがなかった。 可愛い人だったよ。寡黙で、照れ屋で、でも誠実で。かがみも見たとおり、結構顔はよかったから人気もそれなりにあった。でもオタクだったんだよね。 彼はわたしや魔法使いちゃんと違って、それをあんまり隠してなかった。そういうところ、ちょっと格好いいなぁって思ってた。その子は知世ちゃん派でも小狼派でもなく、なぜか断然桃矢派だって云ってて。わたしと魔法使いちゃんで「あり得ない」って突っ込んでよく笑ったよ。 無邪気だったなって思う。 だから、三年の夏に彼から『つき合ってくれ』って云われたときも、深く考えずに、『いいよ』って云っちゃった。一緒にいて楽しかったから、つき合ってもいいのかなって思ってた。つき合うってそんなことだと思ってた。 でもつき合って具体的にどうすればいいかよくわかんなかったから、ずっとそれまでと同じように過ごしてたんだよね。だって、彼とそれ以外の関係になるなんて、まるで想像つかなかったし。 一緒にアニメショップいったり、部屋でごろごろしながら漫画読んだり、ゲーセンいって格ゲーやったり。そんな普通のことしかしなかった。 恋人同士がどういうことするか、知識としてはわかってたつもりだよ。そのためにエロゲとかやってたんだし。でもなんていうんだろう、なんかやっぱり他人事だと思ってたんだよね。なんか大げさに云ってるだけで、別にそんなことみんながみんなやるようなことじゃないんじゃん? みたいな。 漫画とかアニメのキャラみたいな人なんて、実際にはいるわけないし、魔法とか選ばれた力なんて、みんな本当は持ってない。それと同じような感じで、実際はそんなことしないんじゃないかなぁなんて。 無邪気だったなって思う。 わたしはそれで楽しかったけど、彼はやっぱりそれじゃ駄目だったみたい。 ――クリスマスイブの夜だった。 丁度三年前の今日だよね。 卒業が近づいてて、ちょっと焦ってたのかな。ううん、それじゃなくてもクリスマスイブだもん、期待したりもするよね。 わたしは、そんな男の子の気持ちなんてまるでわかってなかったんだ。わたしのこんなやせっぽちで凹凸がなくて子供みたいな身体を見て、男の子がどうしたいと思うかなんて、考えたこともなかった。 ただいつも通りこの部屋でだらだらすごしてて。ただお父さんが買ってきてくれたクリスマスケーキなんかを二人で食べて、適当にギルティ・ギアなんてやってた。わたしはメイ使いなんだけど、カカッとバックステッポで回避したところをいつも通りハイスラでボコられて――って、かがみにはわかんないかこのネタ。 負けたところで、コントローラーを放り出してプレイヤーを攻撃して遊んでた。 かがみにひっついて遊ぶようなこと、わたしはよくやってたんだ。照れる彼が面白くて、脇腹つついたり、肩に顎乗せたりして。当時ジャンプで読み切り載ってた『タカヤ』の真似して「当ててんのよ」とか云ってみたりした。 バカだよねわたし。そんなの、誘ってると思われるに決まってるじゃん。 でも、わたしにはそんなつもり全然なかったんだ。「当たるほどないだろ」とか、そんな返しを期待してたんだ。 勿論、返ってきたのはそんな面白い反応じゃなかったよ。 ――抱きしめられた。 押し倒されて。キスされて。胸を揉まれた。 わたし、呆然としてて咄嗟に反応できなかった。自分が何されてるかすぐには理解できなかった。でもそんな風にぼーっとしてる間にも、気がつけば彼の手がわたしの下半身に伸びてきて――。 すごく、気持ちが悪かった。 吐息とか、体温とか、ごつごつした身体とか。彼のこと、普段は触ってると安心できるのに。そのときは凄く厭だった。不快だった。背筋がぞっとした。 その後のこと、頭が真っ白になってて、実はあんまりよく覚えてない。 気がついたら、テレビ台の脇で彼が頭を押さえてうずくまってた。指と指の間から、ぽたぽたと赤い雫が流れ落ちてきて、どうしたんだろうなんて頭の片隅で思ってた。 台にぶつかったとき、よっぽど大きい音がしたのかな。お父さんが慌てた様子でわたしの名前を呼びながら、どんどんとドアを叩いてた。 覚えてるのは音だけ。 お父さんの怒鳴り声、彼が上げる呻き声、どこからか聞こえてくるジングル・ベルのメロディ。わたしたちに無視されたテレビから流れるギルティ・ギアのオープニング音楽。 ――救急車の、サイレンの音。 その後も色々あって。でもそれを全部云ってたら夜が明けちゃうから、もういいよね。 わたしが説明した話で、お父さんは思い当たることがあったみたいで、遠くにあるおっきな病院にいって受診した。アスペルガー症候群の可能性もあるからって、お父さんは云ってた。 でも違った。 もしかしたらただわたしが子供ってだけなのかもしんない。見た目通り頭の中も子供ってだけで、まだ思春期がきてないってだけなのかもしんない。 でもわたしはなんとなくわかってる。昔から、わたしはなんかちょっと違うんだなって思ってたから。 ――わたし、性欲が一切無いんだよ。そういう欲望自体が全然ないし、ましてや他人に対してそれを感じたことなんて一度もない。そういう気持ちが、わたしはわかんない。 『アセクシュアル』って云うんだって。 かがみは知ってた? ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 『4seasons』 冬/きれいな感情(第十話)/後へ続く コメントフォーム 名前 コメント